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第二話 類は友を呼ぶ
私、財前マナミ。旧姓は石井。カオリと2人で財前姉妹って言われる後の麻雀プロよ。ここではまだ女子高生だけど。
物語は高2の春に始まったわ。
私達は高2の春頃に親の再婚で一緒に暮らす事になって。同じ部屋を2人で分けて使ってたからプライバシーなんか無かったわ。(特にカオリには)でもそれが今では良かった気がするの。おかげでカオリが私と同じ趣味を持っていることにすぐ気付けたから。
カオリの部屋には麻雀の本が沢山あった。雑誌、漫画、戦術書。ここから察するにカオリの麻雀は理論で詰めてくものなのかも知れないと推測できた。
私は全く逆で、私の持ってる麻雀グッズと言えば携帯型ゲーム機の麻雀やリアルな麻雀牌など実戦ありきで、私は実戦経験を何より大切にするタイプなの。
だから私はこれは好都合と、カオリから学んでこうと思った。
「麻雀部作んない?」
私は提案した。カオリには将棋部から探してもらうことにした。将棋部なら麻雀好きもいると思ったのだ。私は隣の席の黒髪の美少女を誘うつもりだ。彼女は佐藤ユウさん。普段は耳の隠れた髪型をしてるが私は隣の席だから彼女がピアスをあけてるのを知っている。そのピアスは小さなサイコロが2つピンゾロになってるピアスだった。サイコロを2つ使う遊びは麻雀しか私は知らない。きっと彼女は麻雀をする。そんな気がする。
「佐藤さん。今日ちょっと放課後時間あるかな」
私は佐藤ユウに話しかけてみた。
◆◇◆◇
私は佐藤ユウ。少し歳の離れたお兄ちゃんが大好きな普通の高校2年生。うちは共働きで両親とも家にいなかったり家でも仕事してたりして小さい頃から私はお兄ちゃんに面倒を見てもらって育った。
そのお兄ちゃんも今では仕事に出ちゃってるからあまり遊んでくれないし。
わかってるよ。高校2年生にもなったらお兄ちゃんと遊んでる方が変なんでしょ。でも、私はお兄ちゃんと2人でやる麻雀が好きだったな。お風呂掃除とかゴミ出し係とか今日の晩御飯作るとか、そんなことを賭けてやる麻雀。おやつのプリンを賭けてる時に微差で負けたのには泣きそうだった。そんな時にも真剣勝負を汚したくないからって言って負けた私にはプリンを「やっぱいいよ」とか言って渡したりは決してしないお兄ちゃん。でも、最後に「もう飽きた」とか嘘ついて一口分だけくれるお兄ちゃん。
ああ、お兄ちゃん。大好き。
お兄ちゃんとやる麻雀。楽しかったなあ。
なんで私達、成長しちゃうのかな。ずっとあの頃のままが良かったのにな……。
あの頃に想いを馳せて街の路上をぼんやりしながら歩いていたら全品千円という安っぽいペンダントや指輪やピアスが売ってる店でサイコロのピアスを見つけた。小さな黒いサイコロが2つ並んで1のゾロ目が出ているピアス。
サイコロを2つ使う遊びと言えば麻雀だ。私はそのピアスに一目惚れしてしまった。1の目の赤が宝石になっててとてもキレイだった。
「これ、ください」
「はいよー、千円ねー。ありがとう」
思わず買ったがピアスの穴はない。
(穴開けの機械買いに行くか……)
近くのデパートでそれは売っていた。今日は思わぬところでお金を使ってしまった。しばらく買い食いはしないで節約しよう。お金がないわけでもないが、
使い過ぎたら戻す。平たくしようとする力を意識する。それが自然の法則であり麻雀もそうだとお兄ちゃんに聞いたから。
その夜。
カシャン!
「痛ったーい!」
私の耳に小さな穴が開いた。
私はちょっとだけ大人になった気がした。
その数日後、隣の席の財前さんが私に話しかけてきた。
「佐藤さん、今日ちょっと放課後時間あるかな」なんて、なんだろう、なんだろう。
財前さんは背が丁度いいくらいに小さくて、前髪パッツンがとても似合ってて、そしてクラスいちの美人だ。なんの話だかわからないけどドキドキしてしまう。
それがまさか。麻雀の誘いとは夢にも思わなかった。
類は友を呼ぶ。それも自然の法則だってお兄ちゃんはそうも言ってたっけ。
135.第十六話 天才女流5期四天王 福島弥生(ふくしまやよい)はドッジボールでは最後まで残るタイプだった。 ぶつかりたくない。痛いのは嫌だ。 そんな事を思っていたら最後に残る、そんな子だ。 麻雀も同じで、最低限だけ、効率的な場面だけ前の方に出ていき、あとは引っ込んでいる。それでいい。それが勝てる。そう信じていた。しかし。「ツモ!」「ロン」「ロン」「ツモ」「ツモ!」(な、なんなのこの子達…… もう少し引っ込んでるってことはできないわけ? 逃げることなんて考えてない…… 何人先制されようと受けながら前進してくるじゃない。まるでカンフー。『換歩(かんぽ)の踏み込み』だわ。だめ、受け切れないっ! 私の守備力じゃもたない…… なんて、なんて女たちなのよ!) 要所要所でアガる麻雀はミサトも得意としたがミサトの打撃は打点が高いからそれも可能。しかし福島は特別高打点打法というわけではないのでこうも受けていては持ち点が足りなくなるのだ。(ダメだっ…… 私も手を出していかないと)フゥ、フゥ(やだな、いつのまにか呼吸が荒くなってる…… この子たちと打ってるとやたら疲れるな) 普段やらないスタイルを強要されたことで疲労が溜まる福島。しかし、やらなければジワジワと削られて消耗するだけ。肩で息をしながらも勝つ可能性に賭けて前に出る。「ロン」(なんなの! もうー!)「12000」
134.第十伍話 戦闘スタイル 成田メグミは喜んでいた。(この20人しかいない女流リーグであの子たちに当たらないで済んだのはツイてるわ! 今日はたくさん勝てそう) ウキウキしながら挑む。もはや対戦相手は誰でもいい。あの子たちじゃないのなら。ベテラン選手であるメグミがそう思うくらいにはカオリたちは強かったのだ。一回戦 5200放銃を3回するも跳満を3回ツモってトップ。二回戦 4000オール。2000は2100オールを決められるも18000直撃して逆転。そのままトップ。三回戦 5回も放銃しつつも親満を2回ツモで気付けばトップ。四回戦 東1局に倍満を放銃するもその後は全員にほぼ何もさせず終わってみれば圧倒的なトップ。(どうだ! 私だってあの子たちさえいなきゃ容易くトップになれるのよ!)「見てたわ、メグミ。強かったじゃない」「アカネさん!」 そこには女流Aリーグ所属の杜若茜(かきつばたあかね)がいた。「放銃が多いのは相変わらずね」「はい! あれが私の戦闘スタイルなので!」「そうね、あなたは踏み込むスタイルのプロ。1番格好いいスタイルよね。誰でも出来るものではないわ。私も尊敬してる」「尊敬なんて…… へへ。私に出来ることは接近戦なんで。相手の拳が届く位置まで踏み込むからこそ私の鉄拳が炸裂するということですね」 そう言ってメグミはグッと拳を構えて見せた。さながらインファイトを得意とするボクサーのようである。「不器用だけど強烈な。そんなあなたの麻雀にはファンも多いし、そのまま勝ち続けたらいいわ。私は女流Aで待っているから」「私はすぐにAに行きますので待たせません。きっと、かわいい後輩と一緒に、そこに行きます」
133.第十四話 麻雀AI福島弥生 3人がぶつかり合う中で1人冷静に状況を見ている者がいた。4人目の女、福島弥生(ふくしまやよい)である。 そう、今期でC2リーグに昇級した1人だ。彼女もこのゲームに参加していた。 彼女の麻雀は余計なことをやらない麻雀だった。例えば、自分が手が悪い時。それでも前に進むのが普通の考えであると言う人は多いし、それが正解かもしれないが。彼女は進まない。既にこの局の先手を取られた時の対応策に焦点を当てている。なのでいつまでは危険牌を捨て、いつから安全牌切りに切り替えるかの絶妙な使い分けが非常に上手い。 無駄な失点はしない彼女は常にトップ逆転が可能な位置に自分を置いて終盤戦のチャンス局に集中して攻めるゲームメイクを得意とした。それ以外の局はAIのように撤退をし続ける。まるで感情がないかのようだ。(福島さんか…… この人、すごいわね。大体で打ってる私とは真逆の存在だわ)《そんな事はありませんよ。あなただって充分深く考えて打っているじゃないですか。でも、確かに、この福島さんという方からは強者のオーラが見えますね》(やっぱり? 私にも緑色っぽいのがボヤ~っとだけど見えるのよ。常時オーラ纏ってる人は久しぶりに見たわ) すると福島から急に『ゴワッ!』と緑色の炎が上がる。(ように見えた) オーラを視認出来るカオリとマナミはビクッ! としてしまう。「リーチ」 福島弥生の初リーチだ。(絶対に高い……! 万が一にも放銃は出来ないな)と思って対応するカオリ。 マナミもそうは思っていたのだが……マナミ手牌二三四伍六①②③55556&nb
132.第十三話 威嚇 ミサトから満貫をアガったことにより8000加点したカオリ。それはミサトと16000点差ついたと言う事だ。それくらいは理解していた。しかし、ミサトのあの様子を見てマナミは鋭く察知していた。 おそらくミサトは選択ミスによりアガれる手を逃している。そもそも、アガれる手がきてないのにあのミサトが捨て牌3段目から放銃なんかするもんか―― と。 だとすれば、つまり12000を多分カオリが振ってたんだろう。そういう選択も可能だったと読むとカオリと24000点差つけてトップ目に立つはずが、逆に16000点差つけられてラス目になった。それはまだ東場なので順位点のことは無視するとしても、それでも上下40000点の違いがあるということ。そこにマナミだけは気付いていた。なのでこのゲームは驚異的ファインプレーをしたカオリを警戒していかなければならない! とマナミの本能が警鐘を鳴らす。 するとカオリが動き出した「ポン」 一萬のポン。そしてこの捨て牌……。カオリの狙いはおそらくチンイツだ。 既に8000加点している状態からそんな大物手を作られては決定打になってしまう。これは絶対に阻止しなければ。 カオリの下家に位置するマナミはこれを見て放置しておく程あまい打ち手ではなかった。「チー」 ⑦⑧⑨をペンチャンチー(ドラは⑧)「ポン」 西をポン 瞬く間の2副露。マナミから一気にピンズホンイツの気配が出る。カオリの思考(うぐっ……! コレはやりづらい! ピンズはドラ色だ…… ここで無視
131.第十二話 呼吸 女流リーグ第1節でいきなり同卓となった財前姉妹と井川ミサト。3人がいきなり同卓というのは珍しいが、カオリたちの属する女流Bリーグは20人しかいないので当たる事自体は不思議でもなんでもなかった。 すると第1節の一回戦目からさっそくカオリとミサトは火花を散らして激突する! 女達の本気のバトルがいま最初の山場を迎えていた。カオリ手牌中中四六七八九(一二三チー)(白白白)ミサト手牌二三四伍⑥⑦⑧(4チー56)(④④④) ドラは④筒で親はミサト。お互いに満貫テンパイだ。そして、ミサト残りツモ2回というこのタイミングでミサトが引いてきたのは――ツモ三(三萬! いやコレはムリでしょ。いくらなんでも。流れる寸前になって萬子のホンイツテンパイがいるの知ってるのにこの牌切るやついないって。だけど…… これオリるの? 私、降ろされるの? それもキツイわ…… 親番でずうっと親満テンパイしてたのに、オリるってこと? まだ東3局なのに? ……つら)「……すいません」 珍しく長考するミサト(せめてテンパイ料くらい欲しいというか、親権を手放したくないわよね。だとしたら、待ちの枚数はこの際少なくてもいいんじゃない? どうせ流局濃厚なんだから多い待ちを取る価値はそんなにない。そして二、三、伍のうちで一番マシな牌と言えば?)打伍「ロン! 8000」「はい(う
130.第十一話 空中戦 財前姉妹と井川ミサトの対局は開幕と同時に激しい闘いになった。「ポン」「ポン」「チー」「チー」 激しい空中戦! まず、ミサトvsカオリのバトルだ。ここでカオリのやった技が凄かった。カオリ手牌中中四六六七八(一二三チー)(白白白) ⑧ツモ カオリは西家でドラは④筒だ。早い段階でピンズ中央を見切り打⑤筒としたら次に④筒(ドラ)を引かされてアタマにきて捨てたらミサトにポンされ、それでも白ホンイツのテンパイにまでこぎつけたのだが待ちは良くない。そんな嵌伍萬待ちをしていたら引かされた⑧筒。 その時、親番のミサトはというと。ミサト手牌二三四⑥⑦⑧⑧(4チー56)(④④④) ミサトの捨て牌はテンパイ濃厚だと語っていた。ドラ3見えてる所に放銃は出来ない。(この⑧筒は危険だ) 場には六萬が1枚マナミの6巡目に捨てられていて、八萬はミサトが2巡目に捨てている。中は生牌だ。カオリの選択打八そして中中四六⑧六七(一二三チー)(白白白)このように並べた。《?》 これはwomanにすら分からない技術だった。カオリは何の意味があって⑧筒をあの位置に置いたのか。同巡ミサト手牌二三四⑥⑦⑧⑧(4チー56)(④④④) 伍ツモ